サンデーショックの影響により、出願動向が大きく変化し、また各校の合格ラインも複雑に変動したのが09年入試です。小6生の6人に1人が受験した首都圏の入試総括とともに、来年以降に中学受験を予定しているご家庭へのアドバイスを、中学受験の専門家である麻布個人指導会・永吉信夫代表と、森上教育研究所・森上展安所長に聞きました。
〈来年以降も続きそうな大学付属共学校の人気〉
永吉 今年はキリスト教プロテスタント系の学校が試験日を変更したサンデーショックの年で、やはり受験生の動きに変化がありました。
森上 2月1日と2日が入れ替わった観がありましたね。女子トップ校は大変でしたが、次ランクの学校群は例年より相当受かりやすかったのではないでしょうか。
永吉 その通りでトップ校は本当に狭き門になりました。特に桜蔭が厳しかったと感じます。
森上 桜蔭も女子学院も、受験者数の増加は04年のサンデーショックとほぼ同じでした。桜蔭の厳しさというのは、国語が難しく、かつ算数が定番問題だったために、僅差に泣いた受験生が多かったということかもしれません。
永吉 今年は桜蔭と女子学院は、偏差値以上の差が出たように感じます。大学受験で東大などの国立志望の受験生は桜蔭、早慶上智志望者は女子学院という住み分けがはっきりしてきたのかなとも思いますが。
森上 それもあるかもしれません。また校風への理解が進んだのではないでしょうか。今年の桜蔭と女子学院のダブル出願を見ても、桜蔭を第一志望とする受験生は女子学院を併願するけれども、その反対は少ない。特に「理数系なら桜蔭」というイメージはすでに定着しています。
永吉 1日から2日に移行した東洋英和、立教女学院、フェリスなども受験者がかなり増えましたね。
森上 その一方で減っているのが伝統校とカトリック校で、これはまさにサンデーショックのたびに繰り返される現象です。反対に予想を超えて盛り上がったのが付属校人気で、特に明大付属明治、法政大の受験者増は目を引きました。
永吉 本当に明大明治の女子は厳しかったです。今年の特徴を総括すると、サンデーショックと付属校人気ということになるでしょうか。
森上 そうですね。その反面、男子校を見ると、開成、聖光、海城、世田谷などの一部を除いて、多くが受験生を減らしています。
永吉 進学校から付属校に流れたといえそうですね。
森上 成城学園や青山学院なども男女とも大幅に増えています。もともと2月2日が受験日の学校はサンデーショックで減るのが普通なのにめずらしい現象でした。
永吉 「大学付属のブランド力のある共学校」が高い人気を呼んだということだと思いますが、この傾向は来年以降も続きそうですか。
森上 来年は共学の中央大学附属が中学を新設し、さらに早稲田高等学院も男子校ですが中学を新設します。特に早大学院は、入試日が2月1日なので、3日に早稲田中学を併願でき、早稲田ファンにはチャンスです。したがって付属校の話題は、来年ますます加速しそうな気配です。
〈来年はチャンスの年 一問を落とさない対策を!〉
永吉 受験者はここ数年着実に増えてきましたが今年は?
森上 昨秋の金融危機直前までは増えると言われていましたが、私立に関しては蓋を開けたらやや減っていました。
永吉 景気の影響なのでしょうか、私立が少し減って公立一貫校が伸びましたね。
森上 国立の受験生もやはり増えました。都立一貫校は来年も富士、三鷹、南多摩、大泉などに4校開校します。公立と私立の併願者がどれくらいになっていくのか、興味深いところです。いずれにしても今後も景気の後退は続くでしょうから、来年の私立入試は02年くらいの水準になるかもしれません。
永吉 そうなれば受験生にとってはだいぶ受けやすい状況が生まれ、チャンスの年とも言えそうです。
森上 先ほども話に出ましたが、難関校の出題を見ると、今年はそうでもなかったですが国語が難化し、算数が定型化してきています。こうした変化に伴って、家庭教師の需要も変わってきたのではないですか?
永吉 数年前とは明らかに違います。以前は圧倒的に算数が中心でしたが、国語の依頼が増えています。国語は一朝一夕に伸びないということも皆さんよく認識しておられ、春先から依頼されるご家庭も多くなりました。当会としても、じっくり着実に力を伸ばしていただきたいので、早くからのスタートをお勧めしています。
森上 算数に関しては、たとえば開成ではいわゆる超難問が姿を消しました。各校とも難問奇問を排除し、基礎的な部分で差が出る出題に配慮しているようです。
永吉 となるとミスできないし、一問を落とすことが合否を分けることにつながります。特に算数は問題数が少なく一問の配点が大きいだけに、みんなができるような問題は絶対に落とせません。ますます基礎的な問題、といっても「受験問題として基礎的」という意味ですが、そこを確実に固めていく必要があります。
森上 算数と国語二科目の指導を依頼する場合、先生は二人お願いすることになりますか。
永吉 ふつうはそうなります。しかし、四科とも指導できる手腕を持つ家庭教師もいます。なにしろ一、二点で合否が分かれる場合も多いのですから理科も社会もみてほしい、というご要望も多いです。
森上 ご家庭からの要望という点で、なにか変化がありますか。
永吉 内容的な変化というよりも、要望を率直に話されるご家庭が増えました。例えば「先生を替えてほしい」などです。
森上 そういう場合はどう対処するのですか。
永吉 もちろん迅速に対応します。むしろ当会から「替えてみましょうか」と提案することも、皆さんがお考えになるよりもはるかに多いと思います。これはその家庭教師の能力の優劣ではなく、相性の問題で交替することにより多大な効果が上がる例を私たちはたくさん見てきたからです。ですから遠慮なく、どんどんおっしゃってくださいと申し上げています。そういう事も一対一の長所なのだと思っています。
〈早い時期からの徹底した 志望校対策で、見事合格!〉
永吉 最近ははっきりとした目的を持って家庭教師を依頼されるご家庭が増えています。「この学校に入りたいので、その対策をしてほしい」などとても明快です。
森上 それは理想的というか、あるべき姿でしょうね。今から始めればほぼ一年間あるわけですから、根本的な対策が可能でしょう。
永吉 その通りです。直前数ヶ月の指導では、苦手や弱点をつぶす対症療法的な指導を中心にせざるをえませんが、今頃からスタートすれば、まず基礎を積み直し、そのうえで志望校対策へとスムーズにつなげられるのです。
森上 かなり優秀なお子さんでも、基礎の積み残しは必ずあります。今からならその部分をじっくりできますし、本質的なことが理解できれば、中学、高校、大学へと進んでいくうえで、中学受験勉強を真の学力作りのチャンスにすることができますね。今年の受験で特に印象に残った合格例はありますか?
永吉 今年非常に目立ったのはいわゆる偏差値表では下位の学校を落としながらも上位の学校に合格したケースですね。
森上 例えばどのような例でしょう?
永吉 開成に合格して早稲田に不合格だったケース、あるいは頌栄女子に不合格でフェリスに受かったケースでしょうか。
森上 ふつうは考えづらい結果ですね。その勝因はやはり家庭教師の志望校対策が実を結んだということでしょうか。
永吉 まさにそうだと思います。直前期はもちろん、春からの早い時期から講師は常に指導の中で志望校を意識した授業展開をします。それが生きたケースです。
森上 会場模試の判定なども超えた合格例、と言えますね。
永吉 そうですね。どちらのご家庭も模試の判定は順風満帆とはいきませんでした。でも、当会の講師が「志望校に向いているからあきらめない方がいい」と助言し励まし続けました。
森上 まさしく専門家庭教師の存在があったからこそ、ですね。来年以降の受験生にも大いに参考になる話だと思います。
永吉 私たちが一番うれしいのは、ほとんどのご家庭から「家庭教師をつけてよかった」と言っていただけることです。毎回入試後にアンケートを行うのですが、たとえ第一志望校に合格しなかったご家庭であっても感謝の言葉をくださいます。あるいは「こんなに伸びるとは思わなかった」「子どもをやる気にさせてくれたことに驚いている」などの言葉に勇気づけられます。
森上 よき指導者と出会えば、子どもは本当に伸びるんですよね。
永吉 「もっと早くからお願いすればよかった」というコメントも、毎年必ずいただきます。家庭教師は単に問題の解き方を教えるだけでなく、家庭学習の指示を与えたり、また塾との距離の取り方をご家庭にアドバイスしたりと、いろいろ頼りになる存在だと再認識されるようです。
森上 当然、受験校選択にも協力してもらえるわけですよね。今年を見ても、1・2日で絶対決めようとの姿勢で受けた受験生は結果がよかった。後半の4〜6日まで持ち越してしまうと、本人のストレスも大変です。この辺は、個々のお子さんを深く理解している家庭教師ならではのアドバイスを期待したいところです。
永吉 当然、家庭教師も私たち教務もそのお子さんにとって何がベストかという目で志望校選択のお手伝いをします。この一年間を有意義な時間にするためにも、春からスタートして確実に目標に近づいて下さい。
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